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zoom RSS ガンダム小説 「連邦軍の星」第七話

<<   作成日時 : 2010/08/21 15:18   >>

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      連邦軍の星(第七話)
                       著   Aesop=YASAMA
                       画   ゲオルグ・ララーシュタイン

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 誰もいないブリーフィングルームでチューブ入りのジンジャーエールを飲み終えた俺は、中身のない空の容器を握り締めたままため息をついていた。
 窓外に見える宇宙は美しい。恒星の輝き、星雲の煌めき。まるで俺たちが今まで掻いくぐってきた戦火が嘘のようだ。
 「こいつが軍隊で飲む最後のジンジャーになればいいのだがな」
 そんなことを呟きながら、俺はくしゃくしゃに握りつぶしたチューブをダストボックスにほうった。
 「中尉、ライザムの遠距戦仕様への換装が終了しました」
 ノックもせずに飛び込んできたのはハート伍長だった。おそらく最後になるであろう出撃を前に緊張しているのはわかるが。
 ふと見ると、先程まで涙でも流していたのか、ハート伍長の目が妙に充血しているのが目にとまった。更に、ノーマルスーツの襟元からはみ出したチェーンの先には、少なくとも俺は今まで見たことのないペンダント揺れていてその開いた蓋のなかには、どやら三人の肖像が写っているようだった。
 「ハート、どうした?そんなに目を赤くして。それにそのペンダントは・・・」
 「あっ、こ、これは・・・」
 おずおずとハート伍長が差し出したペンダントの中身―そこにはハート伍長を中心にして壮年のご婦人と10代半ばと思われる少女が微笑んでいる写真があった。
 「は、母と妹です。いままでこんなことはなかったんですが。最後の決戦を前にして、なんだかしんみりした気分になってしまって」
 なるほど、ペンダントのなかのハート以外の二人も、そろってハートと同じ子犬のような純真な目をしている。
 「私がまだジュニアハイスクールの頃に父が一年戦争で死んでしまって、女手ひとつで育ててくれた母なんです。今は私の軍隊の稼ぎで二人とも生活していますけど」
 「そうか、なら是非とも生きて還ってやらねばな」
 以前、俺たちが囮にされたとき、ハートは“戦いが好きで兵隊をやっている”と云っていた。あれは、俺に気を遣わせないための嘘だったのか。だとしたら、なんとよくできた部下だろう。
 俺はハート伍長の人格に感嘆すると同時に“守るものがある”という彼を羨ましく思った。なにせ俺にはおよそ家族と呼べるものなど記憶の片隅にも存在しないのだから。軍隊生活が長いからではない、それは地球連邦軍入隊以前を振り返っても同じことだった。母親はとっくの昔におっ死んじまっていたし、父親その他の親族にも《愛すべき家族》などと呼ぶほど世話になった覚えもない。
 「中尉、そろそろ出撃の準備を。まもなく戦闘宙域に入ります」
 ライザムのコクピットで今や遅しと待ち構えているカトレー曹長からの催促の声がブリーフィングルーム内のスピーカーを震わせた。
 
 人情話に浸る間もなくモビルスーツデッキにやってきた俺たちは、早速各々の乗機に乗り込んでいく。
 キャットウォークの手摺りを勢いよく蹴って、あとは無重力のもとコクピットハッチへ向けて慣性に身を任せるのだ。
 俺は旧式とはいえ今ではすっかり馴染んでしまったスタークマラサイへ。ハート伍長はライザムへ。
 ただ、今回、ライザムの装備は以前とは換えてある。
 もともと汎用性を重視した量産機だ。オプション装備は豊富なのだ。
 主武装を従来のビームライフルから遠射用ビーム・スマートガンへ。右肩部のミサイルポッドは取り外し、左肩部のマウントラッチにはそれまでの大型シールドに代わってディスク・レドームが装備された。
 これにより索敵能力・射撃精度は大幅にアップされ、長距離支援用MSとしてなんら遜色のない機体となる。
 「ハート、どうだ本来の十八番(おはこ)である長距離支援用MSに乗った気分は?」
 「はっ、中尉。壮快であります。近眼のMSというのは自分にはどうも・・・。この装備なら索敵能力も十分ですし、中尉達の援護は任せておいてください」
 一般の白兵戦用MSを“近眼”といってのけるとは。長いことレイザックという特殊な機体に乗り続けたハート伍長ならではの発言だ。 俺は苦笑した。
 一方のカトレー曹長の装備はまるで代わり映えしない。武装はごく普通のビームライフルに、大型シールド。後部ラッチに「ビームシックル」とかいう近接戦闘用の装備を持っているらしいが、俺はいままでこれが使用されるのを見たことがない。
 そして俺のスタークマラサイだが、こちらもビームライフル以外、これといって取り立てる武装はない。
 ここで俺は、あるひとつのことに気付いた。この「白兵戦用2機、長距離支援用1機」という部隊編成は、ゴムノキ曹長在りし日の第44独立機動戦隊そのものなのだ。
 「44機動戦隊の再来だ!!」
 1機としてあの頃から生き残っている機体はなかったが。
 俺は士気が高揚していくのを感じていた。ハート伍長も思いは同じだろう。カトレー曹長は・・・。
 「もう、戦闘宙域間近です。早いところ出て行って、そのZガンダムとかいうのをやっつけましょうよ」
 「おっ、おう。そうだな」
 カトレー曹長も意気揚々という感じだった。
 俺たちは“ティターンズ”ではない。エゥーゴに敵対しているというだけのただの地球連邦軍なのだ。それ故ティターンズの命令系統下で動かなければならないというわけではなかったし、戦闘に参加しなくても何ら処罰されるということはなかった。特に俺とハートは、もう処分されたことになっているのだから。
 だが、俺は戦う!ゴムノキ曹長の仇、白い悪魔―Zガンダムを倒すまで。
 「発進!」
 スタークマラサイの脚部をカタパルトに固定すると、俺はスロットルを全開にした。と同時にカタパルトによる加速。背中がシートに押しつけられる。
 俺の後にカトレー、ハートと続いて俺を戦闘に3機は逆V字型の編隊を組んだ。
 見る間にアカントフォリスが小さくなった。
 今となってはエゥーゴのコロニーレーザー砲となってしまった巨大な円筒―グリプス2が見えてくる。
 その周りでは幾つもの爆光の瞬きが・・・。
 エゥーゴ、アクシズ、ティターンズの三つ巴の戦い―その総力戦が今この場で行われているのだ。
 「ハート、カトレー、狙いはZガンダムだ。奴と遭遇するまではできるだけ交戦は避けろ。無駄な消耗は避けたいからな」
 「了解!」
 カトレー曹長も“兵士”というよりは“戦士”としての気質が強いのか、軍務としては甚だ不合理な俺の命令に素直に従ってくれる。
 「奴は、Zガンダムは何処だ!?」
 マラサイの強化型センサーをフル稼働させて索敵を行う。ハート伍長も自慢のディスク・レドームで探しているはずだが・・・。
 しかし、やはりZガンダムだけを相手にするというわけにはいかないようだ。エゥーゴのリック・ディアス小隊が攻めてきた。
 俺たちは敵味方の識別コードとしては、もちろんティターンズのものを使用している。エゥーゴ、アクシズ二つの勢力が敵となるのだ。
 「ハートは下がっていろ。ここは俺とカトレーで方を付ける」
 ハート伍長のライザムを残して俺とカトレー曹長は二手に分かれる。リック・ディアス小隊を挟み撃ちにする形だ。
 ライザムはいうに及ばず、俺のスタークマラサイだって機動性ならディアスになど負けやしない。少しでもエネルギーの消費を抑えるよう慎重に照準レティクルを1機のディアスに合わせるとトリガーを引いた。
 命中、撃破。
 以前、実体弾式マシンガン装備で戦ったときはあんなに苦戦したのに。今回のは「装甲強化型ではない」とはいえ、アークツルス基地での悪夢が嘘のようだ。
 残りの2機はカトレー曹長がそれぞれ一発で仕留め、リック・ディアス小隊はいとも簡単に全滅した。
 「Zめ、何処にいる」
 早くZガンダムと戦いたい。俺は焦燥感に駆られていた。
 「中尉」、二時の方向、Zガンダムと思われる機体を発見しました」
 ハート伍長からの通信が入る。やはりディスク・レドームの効果は絶大なのだ。
 「でかした、ハート。よおし、第44独立機動戦隊、突撃!!」
 スロットルレバーが折れんばかりに出力をMAXレベルに上げると、俺たちはハート伍長の示した方向に向かった。
 「んっ!なんだ、あれは!?」
 仁王立ちになったMSがおよそ相手がいるとは思えない天空へ向けてビームを乱射している。そのシルエット、カラーリングは間違いなくあの憎き紛い物、わが連邦の名機“ガンダム”の名を語る不届きな輩―Zガンダムだ。戦友の死でも悼んでいるのか。
 「戦場で追悼式とは、ずいぶん余裕のあることだな」
 ライフルの照準をZに合わせる。トリガーを・・・。
 だが、俺のマラサイのライフルがビームを射出するより早く、別方向からのビームがZをかすめた。
 カトレー曹長だ。
俺の射線上に入ってしまうことなどおかまいなしといった調子でZに突っ込んでいく。
 「中尉、あれがZガンダムですか、自分に任せてくれれば10秒で墜としてみせます!」
 「やめろ、カトレー!奴を侮るな。貴様一人で倒せる相手じゃない!!」
 Zガンダムの出現は余程刺激的だったのか、カトレー曹長は猛然とダッシュしていく。制しようにも俺のスタークマラサイでは、ライザムに追いつくことなど到底無理なことだ。
 この無鉄砲さ、ゴムノキ曹長にそっくりだ。
 俺は思った。
 ・・・ということはやはり末路はゴムノキ曹長と同じに。いや、そんなはずはない。カトレー曹長の乗機は、量産型とはいえ高性能のライザムなのだ。むしろひょっとすると・・・。
 俺の脳裏に不意にそんな希望的観測がちらついた。
 カトレーの第一射をかわしたZはすぐさま反撃に出る。素早くウェーブ・ライダー形態に変形したかと思うと、大きく旋回してカトレー曹長のライザムに向かってくる。
 さすがにその速さには目を見張るものがあり、ライザムといえど遠く及ばないと思わざるを得なかった。
 ビームの乱射だ。
 だが、カトレー曹長も負けてはいない。巧みにZの攻撃をかわしながらビームライフルを撃って間合いをつめていく。
 ハート伍長のビーム・スマートガンでの援護射撃。Zの体制が崩れた。
 カトレー曹長のライザムは、後部ラッチに装備されていた長い棒状の兵器―ビームシックル―を構えた。そしてその先端から弓なりになった巨大なビーム刃が発生し、それを持つライザムはさながら大鎌を構える死神に見えた。
 「あれが、ビームシックルなのか!」
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 確かに近接戦闘において、ビームサーベルとはまた違った間合いで戦いを展開していけるので、扱いなれていれば、ある意味有利といえそうだ。
 一瞬の隙を逃すことなくカトレー曹長がZとの間合いをつめた。
 ビームシックルを大きく振りかぶる。Zが慌ててMS形態への変形を開始するが、もう間に合うまい。Zはサーベルを構えることもなくライザムの餌食になるのだ。俺は自らの手でゴムノキ曹長の仇を討てないのは多少心残りだったが、自分の仲間の手で葬れるのだからそれもいいだろう、というくらいの柔軟さは持っていた。
 カトレー曹長が、ビームシックルを振り下ろす。
 だが、Zガンダムのコクピット部は棒状の金属―ビームシックルの柄ともいえる部分―で弾かれただけで、ビーム刃で切り裂かれることはなかった。
 「消えた!?」
 振り下ろされた瞬間、ライザムのビームシックルの刃の部分が消失してしまったのだ。まるでエネルギー切れでも起こしたかのように。
 それだけではない、なにやらライザムの様子がおかしいのだ。シックルを振り下ろしたまま動かない!!
 「何ぃ!?オーバーロードだとぉ!!」
 カトレー曹長の狼狽振りが通信機を通して伝わってくる。
 これだ!これだったのだ!!俺が感じていたライザムへの不安というのは。おそらくあの小さな図体だ、ジェネレーターを無理やり小型化でもしていたのだろう。そしてビームライフルとビームシックルという膨大なエネルギー消費を伴う兵器の併用、それがジェネレーターに無理な負担をかけ、過負荷を起こし機能が停止してしまったに違いない。
 「カトレー、いま助けに・・・」
 だが、それは無理なことだった。
 MS形態への変形を完了したZガンダムは、身動きの取れないカトレー曹長のライザムを容赦なく一刀両断にした。
 「カトレー曹長!!」
 一瞬だった。
 機体の中心線から真っ二つにされたライザムは、幾つもの閃光を放ち赤い爆球と化した。
 救えなかった。またしても。俺もハートも援護射撃すらしてやることができなかった。
 取り敢えず火の粉を払った、とでもいった調子でZが向かってくる。
 「ちきしょおぉぉぉ!」
 俺は懇親の力を込めてライフルを連射した。
 一条、 二条・・・。
 だが、閃光のことごとくはZによって難なくかわされ、背後の暗闇へと吸い込まれてしまう。
 「なぜだ!?なぜ当たらない!!」
 俺の射撃は正確なはずだ。旧式のマラサイとはいえ五体満足な状態で攻撃しているのに。
 奴は、Zガンダムはそんなに優れているというのか。
 今度はZがビームを撃ってきた。
 俺は、当たらないように機体を動かし続けるのがやっとだった。
 「ハート、援護を」
 ハート伍長のビーム・スマートガンが炸裂する。
 その輝きはZガンダムに傷を負わせることはなかったが、俺に攻撃のチャンスを与えてくれたかに見えた。
 距離を詰め、ライフルの照準を定める。
 「これならどうだ!!」
 だが、次の刹那ダメージを負ったのはZではなく俺のマラサイだった。奴が信じ難い反応速度で反転しマラサイの右腕を狙い撃ったのである。
 「そ、そんなバカな・・・。うおぉぉぉぉ!!」
 俺は左手にハンドグレネードを引っ掴むと、Z目掛けて投げた。宇宙空間でのハンドグレネードの効力などというものは、たかが知れたものだったが、目くらまし程度にでもなればいいと思ったのだ。
 マラサイを最大戦速でダッシュさせ、左腕を繰り出す。
 が、その左の拳はZの機体をかすめることはなくビームサーベルで切り落とされてしまった。
 「まだだぁっ!!」
 キックを食らわせようと振り回した右脚はするりとかわされ、代わりにZの蹴りがマラサイを突き飛ばした。
 程よく二機の距離が開けたところでZが俺に向かってライフルを構えたようだったが、ハート伍長の援護のおかげで俺は的にならずに済んだ。
 「中尉、ここはひとまず撤退を」
 「ならん、ここで奴を倒さねば、ゴムノキが、カトレーが・・・」
 「中尉、その傷だらけのマラサイで何が出来るっていうんです!?今ならまだ脱出は出来ます」
 確かにそうだなハート伍長の言うことは的を射ている。もはやマラサイにまともな攻撃手段は無い・・・だが、動くことは出来る、動くことは・・・。
 「わかった、ハート。戦線を離脱する!」
 マラサイの背部と脚部のスラスターが青白い炎を吹き出し、全周スクリーン上のZがたちまち点のようになった。
 カトレー曹長は逃げることすら出来なかったのに。俺たちは・・・“俺”は、脱出することが出来た。
 「量産型の安物といっても、売れ残りの不良品よりはましってことか」
 そんな言葉が口をついた。

 「中尉、前方に艦影発見、サラミス級巡洋艦と思われます。味方の識別コードは出ていますが、こちらからの送信に応答ありません」
 「よしっ、そいつに着艦するぞ。マラサイの応急修理くらい出来るかも知れん」
 「はっ」
 俺たちは巡洋艦目掛けて進路をとった。

 俺のマラサイの望遠モニターでも十分艦影が確認できるくらいになる。ブリッジの損傷度はかなりのものだ。ビーム攻撃をまともに食らって消し飛んでしまっている。あれではブリッジ要員は全滅だろう。だが、その他の部分はこれといって外傷もなく艦内の設備には期待が持てそうだ。
 俺とハートはそれぞれの乗機を甲板に着けるとコクピットを後にした。
 入ってみるとその艦の中は薄暗く、人の気配をまるで感じない。やはりこの艦は既に放棄されてしまったものなのだろうか。
 俺たちは格納庫へと足を運ぶ。連邦軍でも最もスタンダードなサラミス級だ。久方ぶりとはいっても内部の構造は手にとるようにわかる。
 長大なキャットウォーク、聳え立つ整備デッキ。まさしくモビルスーツ格納庫だ。
 暗いのでよく分からないが、どうやらここも閑散としていることが伺えた。
 マラサイの腕のスペアなど有りそうもない。
 「ハート、明かりをつけてみろ」
 ハート伍長が照明のスイッチを入れ、格納庫内すべてが見渡せるようになった。
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 「あれは・・・」
 格納庫の一番奥で直立不動の姿勢を保ち続けている濃紺のMS。後頭部に羽飾りをもつその機体は・・・。
 「バーザム?・・・なのか」
 そうだ、バーザムだ。それも新品の。まったく無傷で。右手にはグレネード付きのビームライフル、頭部にはバルカンポッド、そして後部ラッチにはハイパー・バズーカまで付いている!
 「よくぞ、こんなところに」
 そのMSは、まるで俺が来るのを待ち望んでいたかのようだった。
 それにしても、こんなMSがありながらさっさと艦を放棄してしまうとは、ティターンズのなかにも志のない者がいるものだ。
 「ハート、俺はこのバーザムで出るぞ。貴様は俺のマラサイで脱出しろ。腕部をやられただけだから爆発はせん。欠陥品のライザムよりは余程信頼できるだろう」
 「いいえ、中尉。自分も御供させていただきます。カトレー曹長はビーム兵器を多用し過ぎたためにオーバーロードを生じさせてしまったと思われます。機動性の面ではやはりマラサイよりライザムの方が優れていますし、スマートガンで戦うだけなら十分やれると心得ます」
 「そうか、すまんな」
 俺は早速バーザムのコクピットに収まった。
 バズーカ、ライフル、バルカン、そしてビームサーベル。泣いても笑っても武器はこれだけだ。Zとは以前にもバーザムで戦い、敗れている。だがこの“バーザム”こそ名機ガンダムの真の後継機なのだ。紛い物のZガンダムなどに負けるはずが・・・。そう思ったとき、俺は格納庫の片隅にうずくまっているワイヤーを見つけた。
 こいつは使える。
 俺はバーザムの左手にそのワイヤーを拾わせると、一方の先端をバズーカのトリガー部分に結びつけ、残りの部分を左手に巻きつけた。
 「今度こそ、あいつに一泡吹かせてやれそうだぞ」
 先ほどZに殺られ無残に散っていったカトレー曹長の最期が目に浮かんだ。ひたすら巨大な爆球となって宇宙を赤く染めたライザムが・・・。
 と同時にもうひとつの考えがひらめいた。こちらは実行に移すのは甲板に出てからだ。ハート伍長がライザムのコクピットに収まったのを確認してから、俺はビームサーベルを引き抜いた。
 マラサイの脚部を切り離す。
 「中尉、何を!?」
 ハート伍長が、まるで解せないといったふうに訊いてくる。
 「こいつをZにぶつけるんだ」
 「ぶつける!?」
 「ああそうだ。Zガンダム撃退用の秘密兵器。まあ、見ていろ」
 俺はバーザムの左腕に、手足を切り取られたマラサイの胴体部分を抱えさせると、サラミス級巡洋艦を後にした。ハートもそれに続く。

                        *   *   *   *   *

 再び戦場。幾つものビーム光が交錯する宙域に到達した。
 「Zは?」
 ・・・いた。しゃにむに我が軍のMSを蹴散らしている白い悪魔。その姿を俺はハート伍長よりも早く発見した。単なる偶然かそれとも感が冴えているのか。
 「ハート、Zガンダムを発見した。貴様は俺が奴との戦いに専念できるよう、邪魔者の介入を阻止してくれ」
 「了解」
 俺はZガンダムに向けて、スラスターを吹かした。やはりマラサイとは違う、この加速感は一瞬ではあったが、俺を安堵の気持ちにひたらせてくれた。
 Zの機影がより確かなものとなる。
 俺は、抱えていたマラサイの胴体部分をZガンダム目掛けて投げた。
 ある種の回転運動をしながら、驚異的なスピードでマラサイの胴部はZに近づいていく。もちろん、ハート伍長にいったとおり本当にただぶつけるつもりでこんなことをしたのではない。
 Zが躱そうと身を翻す。至近距離だ。
 俺は、マラサイの中心部―核融合炉―を狙ってビームを放った。
 ビームの直撃を受けてマラサイの核融合炉が大爆発を起こし、巨大な爆球が俺の眼前に広がった。
 スペースコロニーの外壁をも破壊するといわれるMSの核融合炉の爆発だ。あの距離で食らっては、いかにZガンダムといえど無傷であるはずがない―それが俺の狙いだった。だが・・・。
 「何だと!?」
 爆球の中から現れたZガンダムは、どこも破壊されていないどころか塗装の焦げひとつ見当たらないのだ。
 確かに爆心地にいたはずだ。奴は、Zガンダムはバリヤーでも持っているというのか。いや、そんなはずは。少なくとも俺の手元にあるデータでは、奴の機体スペック上“Iフィールド発生装置“などは含まれていない。第一、Iフィールドはビームを弾くためのもので、核融合炉の爆発など防げるはずがないのだ。
 意表をついた作戦のはずが、敵の思いがけない性能のためにこちらが驚かされる破目になってしまった。
 なんということだ。だが、怯んではいられない。取り敢えず通常戦闘に切り替える。
 ビームライフルによる射撃プラス、グレネード発射。
 やはりだめか、かすりもしない。このバーザムをもってしても・・・。
 俺は頭部のバルカンポッドから空薬莢を飛ばしつつ、後部ラッチのバズーカを放出すると左腕に巻きつけていたワイヤーをほどき、近くを浮遊していた岩塊をひとまわりしZの後ろに廻った。
 俺の正面にZ、その向こうにバズーカ、そして岩塊という位置関係になり、バズーカに結び付けてあるワイヤーは岩塊に引っかかってその先端はバーザムの左手が握っている。
 無駄と分かりつつも繰り返すライフルでの射撃。もはや当てようなどとは思っていない。奴をバズーカの射線軸上におびき出すのがねらいだ。
 Zガンダムがバズーカの砲口の正面に位置する瞬間、俺はワイヤーを勢いよく引き、バズーカのトリガーを引いた。ファンネルもインコムも無いMSでのオールレンジ攻撃もどき―それが俺が考えた苦肉の策だった。
 果たしてバズーカの弾は・・・当たった。
 だが、その直前、Zガンダムの全身が薄桃色の怪しい輝きを放ち、その効力を無にしてしまった。やはり傷ひとつ負っていない。
 「この、この、このおぉぉぉ!」
 俺は、ビームライフルを撃ちまくった。
 奴はもう避けようとはしない、避ける必要など無いのだ。
 バーザムのビームライフルの直撃も、グレネードもすべて弾いてしまうのだから。
 あいつはバケモノか。モビルスーツがバリヤーを張るなんて、そんな・・・。
 「機体の性能がいいからって、運よくいい機体乗れたからって、そんなんで、そんなことだけで・・・」
 底知れぬ悔しさが込み上げてくる。俺だってクリーガーに乗っていれば、みすみすカトレー曹長を死なせたりやしなかったんだ。
 もう、ライフルのエネルギーが無い。俺は潔くビームライフルを捨てるとビームサーベルを握った。
 Zガンダムがライフルを撃ちつつ迫ってくる。
 なんとか標的にされる前に、せめて一太刀だけでも浴びせねば。
 俺は回避行動をやめ、Zガンダムに向かった。
 と、一条のビーム光がバーザムとZガンダムの間を流れ、赤い一機のMSが割って入った。ハート伍長のライザムだ。
 「中尉、自分もお手伝いします」
 「やめろ、ハート。いくらライザムでもあのバケモノに勝ち目は無いぞ。ましてその遠距戦仕様では。貴様は下がっていろ!」
 「ですが、中尉、自分は中尉がむざむざ殺られるのを見たくはありません!!」
 ハート伍長の初めての命令違反だった。
 俺の制するのもきかず、Zガンダムとの交戦状態に入る。
 敵との距離を置いてこその遠距戦仕様なのに、あのZガンダムの前ではハート伍長といえどすぐさま距離を詰められてしまう。
 もはやスマートガンでの狙撃は無理な距離となった。
 ハート伍長はスマートガンを抱え上げると、間合いを詰めてきたZガンダム目掛けて振り下ろした。
 だが、やはり目方のあるスマートガンでは、ビームサーベルのようにはいかないのか避けられてしまう。
 続いてZガンダムがビームサーベルを構えると、ハート伍長のライザムに切りつけた。ピンク色の光を放つ悪魔の刃が、ライザムの左肩口から斜めにめり込んでいく。
 このままではハート伍長が・・・。
 「させるかよぉ!!」
 ハートには“守るべきもの”があるんだ。
 俺はバーザムをZの側面に体当たりさせた。Zとバーザムはもつれ合ったまま、ライザムから離れていく。
 「ハート、脱出を!」
 Zガンダムから受けたライザムの傷は、致命傷と呼べるものだろう。
 俺はハートに脱出を促した。
 と、同時に右手に構えたサーベルの出力を上げる。
 一瞬、サーベルが輝きを増し、紅蓮の炎と化した。
 「くたばれ紛い物!!」
 Zガンダムのコクピット目掛けサーベルを突き立てる。
 だが、・・・いや、やはりというべきなのか、そのビーム刃がZのコクピットハッチを貫くことはなく、Zの表面に当たる先から消失してしまった。
 Zがバーザムを蹴飛ばしてきた。
 激しい衝撃。
 続いてライフルを撃ってくる。
 避け切れなった。コクピット直撃こそ免れたものの、脚部に二発、右腕部に一発食らって、バーザムに残されたのは左腕一本のみとなった。
 もはや戦闘能力など無いバーザム。俺は戦線離脱を試みてスラスターを全開にした。
 やった!
 Zは追撃することなく向きを変えた。だが、その先には・・・何ということだ!!まだ、脱出できずにもがいているハート伍長のライザムがあった。
 Zはライザムに止めをさす気なのだ。
 「やっと救いかけたハート伍長をやられてたまるか!」
 俺は再びZに向かった。
 残された左腕でZの背後から組み付く。ギシギシと金属が悲鳴を上げる音がコクピット内にもこだました。今度こそハートの脱出時間を・・・。
 Zガンダムはビームサーベルを握るとバーザムの脇腹から一突きにした。その悪魔の刃が俺を貫く寸前、全周スクリーンの片隅に、損傷を受けたライザムのコクピットハッチが開いて中から脱出ポッドが出てくるのが見えた。
 「ハート、お袋さんと妹さんを大切にな」
 最後の最後で、やっと上官らしいことがしてやれたな・・・。

                                                       最終話    FIN



             あとがき(というか解説というか言い訳)
 この第7話は、1993年4月に模型研究会の会誌に掲載されたもの(執筆は大学在学中でしたが活字化は卒業後)のごく一部手直し版です。
 場面は、「Zガンダム」の最終回近辺“アニメには描かれていない、こういう風に殺られていった敵(ティターンズ側)もいても良いのでは”というところです。Zガンダムが“追悼式”をやっているのは、確かアニメで「エマさんか誰かが死んだ直後」だったと思うのですが記憶が定かではありません。
 ライザムのビームシックル(鎌)のアイディアは、例によって信じてもらえるかは分かりませんが「ガンダムW」のガンダムデスサイズ(だったかな?)が持っていたビーム鎌より先です。実はヒントを得たのは「青の騎士ベルゼルガ物語」の“地獄の宣教師”が持っていた鎌状の武器だったりします。
 挿絵でもお分かりかと思いますが、この世界での“バーザム”はアニメ版ではなく「センチネル版」のつもりです。
 「マラサイの胴体部分を爆弾代わりに」というのは、映画「機動戦士ガンダムF91」で、ヘビーガンだかGキャノンだかの胴体をそういう風に使う場面があって、そこから拝借しました(この辺、一話のラフ執筆から6年もかかっていればこそですね)。
 “Iフィールド”はもちろん「機動戦士ガンダム0083」のデンドロビウムからで、ガトー少佐が部下から「ビーム主体のその機体では・・・」とたしなめられていたので、ビームに対してのみ有効な装備なのだと解釈して言及しました。
 Zガンダムの“バリヤー”ですが、これは25年前から腹立たしく思っていることで(ZZも同じようなことやっていますが)、SPECに「バリヤーが張れる」なんて定められてないのに、勝手にカミ―ユの力か何かで、たとえば「ヤザンのハンブラビのビームの直撃をことごとく弾いたりして」いました。これでは、何のためにそれぞれのMSのジェネレータ−出力やら装甲材質が定められているのか分かりません。その皮肉の意味をイソップ中尉に独白させました(この、「乗り手しだいでバリヤーを張ったり」云々はダンバインあたりからひどくなったような気がします)。
 「逆襲のシャア」でアムロが、ファンネルを用いてバリヤー展開するのはいいんです!あれはSPECで「フィン・ファンネルは対ビームバリヤーとしての役割をもつ」と定められているから。
 また、初代「機動戦士ガンダム」では、エルメスやブラウブロのオールレンジ攻撃をアムロは「全部避けて」いました。ジオングにビームを当てられれば壊れます。“ニュータイプ”とは本来「普通より感の良い人」程度のものだったはずです。決して物理的な“超能力合戦”ができる存在ではなかったはずです。それが「Z、ZZ」ではないがしろにされて・・・。

 今回WEB版を打ち直すに当たって結末を変えようか(もちろんZガンダムに勝つ、というわけではありません)とも考えましたが、これまでの話の積み重ねから「やはりこの終わり方がいい」と思い至りました。イソップ中尉には非常に気の毒ですが。



 
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Aesop=YASAMA(イソップ・ヤサマ)中尉
       UC0063年生まれ
       身長190cm
 一年戦争時代からのMS乗り(スーツライダー)である。一応エースパイロットであるが本編での活躍ぶりを見る限り、その称号はハート伍長にこそ相応しいかもしれない。「僚友のゴムノキ曹長の仇」とZガンダムを激しく憎むが“乗機に恵まれない”という不運と“Zガンダムの反則的な強さ”もあって、様々な努力にもかかわらず敗れてしまう。
 
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RMS-109 ライザム
頭頂高:16m(ブレードアンテナ含まず)
本体重量:26.4t
全備重量:45.9t(兵装によって異なる)
ジェネレーター出力:1,890kw
スラスター総推力:89,600kg
センサー有効半径:11,400m(ディスクレドーム装備時20,100m)
装甲材質:ガンダリウム合金
武装:ビームライフル、ビームシックル、ミサイルポッド、ビームスマートガンなど

 RMS-108マラサイの純粋な後継機として開発された機体(正式採用されたのはバーザムだが、これは「ガンダムMkUの後継機」というのが公式設定)。この時代のMSとしては非常に小型な部類に入る(UC0123頃のスタンダードサイズか)。小型軽量なボディに優れたスラスター推力の組み合わせで、それまでの量産機にはない高機動を示す。ジェネレーター出力はボディサイズに対して非常に優秀だが、これがあだとなってビーム兵器の多用時にオーバーロードを起こすことが判明(この事情をカトレー曹長たちは知らないのだが)、先行量産型9機で生産終了という末路をたどる。

*この「ライザムの設定」は今回(2010年8月)新たに書き起こしたものです(実はこいつだけ全然決めてなかった)。模型は今から15,6年ほど前にフルスクラッチしたもの(自分でいきなり144分の1サイズの三面図を描いてそれに合わせて各部を作っていくという方法。私は、まともなデザイン画は描けませんが、三面図は描けるのです)ですが、今日的レベルで見るとかなり観賞に耐えないものなので、いずれリメイクしようと思っています(なので今回は「模型」の記事は作りません)。「ライザムとはこんな感じ」とイメージを掴んでいただくために前後面の写真のみ掲載しました。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
とうとう完結してしまいましたね、
自分はこういった最後が正直書きづらいです。
結構キャラクターに対して保守的になってしまうので。
それでもほんと考えさせる作品でしたよ。

追悼式の件ならジェリドを倒した後ですね。
ちょうどラーディシュが沈んだ直後
ジェリドのバウンドドックがZのライフル2発
食らってラーディシュの爆発に巻き込まれるとこです。
ミスターZ
2010/08/21 23:35
コメントありがとうございます!
はい、一度十数年前に紙媒体では完結させていたとはいえ、今回の最終回はやはりアップさせる前にためらいもありました(何せ、ラストがラストですので)。
ええ、あとがきにすらも書いていませんが、「娯楽作品」とはいえ、それなりに自分のリアルな生活の部分でも感じたとこと思ったことなども脚色して盛り込んでおります。「考えさせる作品」といっていただけて嬉しいです!!

追悼式の件、ご助言ありがとうございます。自分は、TVの再放送や劇場版も含めると、相当回「Zガンダム」を視ているはずなんですが、物語後半になるほど記憶があいまいで・・・本当にありがとうございました。
Aesop
2010/08/22 07:40
 こんにちは。(笑)

 中尉、死んじゃったんですね・・・。
 カミーユは、やはり強い。

 ところで、放置されたバーザムには、キーロックなどしていなかったのでしょうか?
 通常、「敵に盗まれたら」と考え、ロック又は、トラップを仕掛けているのでは?
 とか、思っちゃいました。
 言っておきながら、なんですが、スルーして下さい。

 次回作なんかも考えられているのですか?
トム
2010/08/22 13:31
「中尉が死んで終わる」というのは、ブログにアップするまでに改めようか相当悩んだところです。残念ではありますが。

鋭いツッコミありがとうございます。自分としては、艦を放棄したのは”志のない”人たちなので、「敵に盗まれたら」というようなことは考える間もなくさっさと脱出してしまった、という設定になっています。

次回作は今のところ、全く考えていないんです。「思いついたら書く」というスタンスなので、明日にも書き出すかもしれませんし、数年後とかにポツッと書くかもしれません。
コメントありがとうございました♪
Aesop
2010/08/23 07:45

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